具体的な実践方法
バリデーション療法の基本姿勢
具体的な技法について知る前に、基本的な考え方について理解しておきましょう。バリデーション療法は、認知症の人が本当に表現したいことや気持ちを積極的に聴く姿勢を持つことが大切です。また、そこで伝えられたことに対してごまかしたり嘘をつくなどの対応はしません。たとえば、家に帰りたいと訴える人に対して「明日帰れるので今は落ち着いてください」などと決まってもいないことでその場を取り繕ったりせず、帰りたいという気持ちを受け止めた上で、なぜ帰りたいのかという真意に耳を傾けます。もし、実際にはありもしないことへの恐怖が理由であっても、否定したり無理に現実へ引き戻そうとしたりせず、本人の世界を共有するように努めます。
また、安心してコミュニケーションをとってもらえるようにペースを合わせるようにします。姿勢や歩き方、呼吸や表情など、よく観察して一致させるようにします。あくまでもケアを行う側が合わせようとするのであって、認知症の人のペースをこちら側に誘導したり強制したりするものではありません。
具体的なテクニックについては多くの項目があり、すぐに全てを実践することは難しいかもしれません。しかし1つずつできることから始められ、順番も気にする必要はありませんので、少しずつ学んでいくと良いでしょう。以下に例を紹介します。
会話に関わるテクニック
コミュニケーションの種類の中でも会話に関わるバリデーション療法のテクニックについて紹介します。前述の基本姿勢を具体的に実践するためには、いくつかのポイントがあるのです。
1つめは、「共感」に関わる「リフレージング」です。認知症の人の話に耳を傾けて、その中で一番重要だと思われるキーワードを反復します。たとえば、「もう帰らなくては」と言っているならば、「帰らなくてはならないのですね」という具合に言葉を繰り返します。
2つめは、その理由を探ることにつながる「オープンクエスチョン」です。認知症の人にとって、「なぜ」という質問は難しいので使わないようにしながら、自由に回答できる開かれた質問をしていきます。上記の例であれば、「帰って誰に会うのですか?」「帰ったらなにをするのですか?」というような質問になります。
3つめは、「レミニシング」です。元になっている動詞「reminisce」には、追憶する・思い出を語るという意味があります。認知症の人の話には大切なメッセージが込められていることがあるので、たとえいつも同じ昔話を繰り返していると感じていたとしても、進んで耳を傾けるようにします。その中でリフレージングやオープンクエスチョンを使っていくと、今まで気付くことのできなかった真意に近付くことができるかもしれません。
その他のテクニック
日常のコミュニケーションにおいてもポイントとなるアイコンタクトは、認知症ケアの場面でも重要です。真正面に座って、「あなたの話に耳を傾けます」というメッセージを送りながら目をみつめると、自然にその気持ちが伝わるはずです。
また、話の内容に応じた触れ方をする「アンカードタッチ」という方法や、その人の思い出の曲や感情に合った歌などの音楽を使うという方法もあります。
日常生活の中でも試してみよう
バリデーション療法のテクニックは、豊かなコミュニケーションや信頼関係の構築にとても役立ちます。多くの項目がありますが、その1つひとつはすぐに実践できるものなので、まずはできそうなことから始めてみましょう。
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