「パーソン・センタード・ケア」はバリデーション療法に通じる考え方

2020.04.29

併せて知っておきたい考え方

1人ひとりを尊重する「パーソン・センタード・ケア」

パーソン・センタード・ケアは、イギリスのトム・キットウッドという心理学者が1980年に提唱した認知症ケアの1つの考え方です。認知症の人を、それぞれ1人の人間として尊重し理解しようとする姿勢は、バリデーション療法に通じるものがあります。
当時のイギリスにおける認知症ケアは、おむつ交換や入浴介助などを時間通りに進めることを優先した作業的なもので、人としての尊厳を守ることについては注目されていませんでした。そのため、介護者から下にみられたり除け者にされていることも少なくなかったようです。そんな中で認知症の人が怒りを覚えるのは当然のことですが、怒っても「よくわからない異常行動」としか捉えられないためなにも変わらず、そのうちに怒ることにも疲れ、最終的には生きようとする気持ちさえ失ってしまうことにつながっていました。このような状況を改善するために、パーソン・センタード・ケアという考え方が生み出されました。

1人ひとりを尊重する「パーソン・センタード・ケア」

ケアの現場の変革の一歩

認知症の人に対する上述のような考え方は介護職員個人の問題ではなく、介護の職場風土そのものに問題があるとしてキットウッドさんは注意を促しました。決して良いとは言えない対応の仕方は先輩から代々受け継がれ、知らず知らずのうちにそれが当たり前になってしまっていると考えたのです。そこで、職場全体を変えていくために認知症の人に対する新しい考え方を提唱しました。
それまで認知症は医療分野で扱う問題であり、介護分野においては理解に苦しむ言動があったとしても、それを理解しようとしたり改善したりする必要があるとは考えられていませんでした。しかし、たとえば同程度のアルツハイマー病の人であっても同じ行動をとるわけではないので、言動にはその人それぞれの要因があることを理解し、それに合わせた対応をとることで状態を改善できるかもしれない、と訴えたのです。
認知症の人は心身や環境による不快感に襲われていても、その原因をうまく表現できない場合があるため、結果として大声を上げたり暴力を振るったりという手段をとることがあります。その際にただ抑えつけるのではなく、どういった原因があるのかについて理解しようとすれば、その人の状態を改善できる可能性があるということです。

ケアの現場の変革の一歩

認知症の人の言動は疾患のみに起因するのではない

認知症であるからと言って、言動の全ての原因がその疾患にあるわけではなく、その他の要因にも着目する必要があるとキットウッドさんは考えました。性格の傾向や生活歴、健康状態や社会心理など、人それぞれに異なる事情があるのです。
たとえばよく家に帰りたいと訴える女性は、もともと主婦だったために家族の食事の準備が気がかりだという生活歴の影響があるのかもしれません。朝から妙に落ち着かず不機嫌な人は、もしかすると発熱などの体調不良があるかもしれません。このように、言動の原因を疾患だけのせいにせず探っていくことで心身の状態を改善することができると考えられており、バリデーション療法と同じく認知症の人を1人の人間として尊重する考え方であることがわかります。

認知症の人の言動は疾患のみに起因するのではない

日常生活の中でも試してみよう

具体的な実践方法

バリデーション療法のテクニックは、豊かなコミュニケーションや信頼関係の構築にとても役立ちます。多くの項目がありますが、その1つひとつはすぐに実践できるものなので、まずはできそうなことから始めてみましょう。

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